第3回産地見学会
寒い日が続きますが、2月12日、昨年秋から続く三回目となる産地見学会を堺市にて実施いたしました。昨年の第2回産地見学会にも参加いただいた近畿経済産業局、大阪府、大阪産業局からも参加頂き、今回も総勢14名の参加者が集まりました。改めて、全国的に知られる堺市の代表的伝統工芸品への関心の高さを感じられます。
今回も見学会にてご協力いただいた堺伝匠館様、株式会社薫明堂様、伊野忠刃物製作所様、池田刃物製作所様、株式会社和泉利器製作所様に感謝申し上げます。
1.株式会社薫明堂
戦国時代に貿易港として栄えた堺では、鉄砲鍛冶や製薬、茶道など様々な文化が育まれましたが、線香の製造方法も中国の明代にもたらされました。株式会社薫明堂は文化年間に創業、沈香、白檀、丁子や桂皮など漢薬に用いられてきた天然成分の配合に研鑽を重ねて、長年に渡り数多くの仏教寺院向けに製品を提供されてきた老舗企業になります。
粉末状の原料から調合、練り、線香の形状に押し出して形を整え(盆切り)、長さを揃えて(胴切り)、乾燥させた後に把にまとめて梱包と自社内で一環生産されます。
大変高価な沈香や白檀に限らず、洗練された調合により香りの芸術といわれる堺線香ですが、盆切りなど繊細で無駄のない職人技に、日本を代表する伝統工芸品としての品格が感じられました。
2.伊野忠刃物製作所様、池田刃物製作所様
料理人が使う包丁として、全国的に良く知られる堺打刃物は、近年では、その切れ味が海外でも知られるようになり、非常に多くの外国人観光客がお土産品として購入されるようになりました。
約600年の歴史を誇る堺打刃物は、「鍛冶」「研ぎ」「柄付け・仕上げ」の行程をそれぞれの職人が担当する分業制で製作されてきた事でよく知られています。堺市内にも鍛冶専門、研ぎ専門の製作所が数多く、「ものづくり」の街として発展しました。
伊野忠刃物製作所と池田刃物製作所は、隣り合った敷地でそれぞれの職人達が研鑽を積んできた歴史を感じさせる街中の工房になります。
鍛冶を担当する池田刃物製作所は、地金と刃金を一体化させた日本独自の刃物を鍛造にて生み出します。高温に熱した地金に刃金をのせてリズミカルに叩き出し、刃物の形に削り出す作業は、今でこそ叩き出しには機械を使用しますが、古来より継承された伝統的技法になります。
露地を抜けて、隣の伊野忠刃物製作所は、堺伝統の研ぎにより刃物を完成させる工房となります。回転する砥石の角度の違いを駆使して、自在に刃物の形を整える様は、改めて日々の技術の研鑽を感じます。伊野忠刃物製作所様、池田刃物製作所様にはの貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。
3.株式会社和泉利器製作所
堺刀司のブランド名で全国的に良く知られる株式会社和泉利器製作所は、文化2年(1805年)に創業、庖丁・鋏・調理用品を製造販売する堺を代表する老舗企業のひとつです。
前述のように、堺打刃物は鍛冶、研ぎ、柄付・仕上げと分業されて、品質維持と量産を可能にした歴史的経緯がありますが、最終工程となる柄付は包丁の出来を決めるため、非常に慎重な作業となります。通常和包丁では、柄は軽くて水に強く丈夫な朴の木が使用されますが、近年は海外の観光客にも日本らしい和包丁が好まれるとの事でした。
柄付とは、包丁の中子部分を熱して、柄に差し込む工程ですが、直ぐに外れたりガタがあったり、という事に限らず、包丁の重心、芯がずれずに柄と刃先が真っ直ぐである事など、和包丁の切れ味の良さや精密さは、料理そのものに大きく影響するため、重要な最終工程となります。更に、銘を彫り込み、刃先の歪みを正して製品として完成となります。
世界的に日本料理やおもてなしの精神が注目され、毎年海外からの観光客が増えていますが、日本料理の精緻さや、神秘的な日本刀の魅力が相まって、包丁など日本の刃物が海外でも注目される中、これからも伝統工芸産業の代表として堺打刃物がより広く世界的に支持されていけばと思います。
堺市を代表する伝統産業の堺線香と堺打刃物の見学となりましたが、最後に堺伝匠館にて、多様な種類の刃物や、こいのぼりや段通などその他の伝統産業の展示も含めて堺の伝統と歴史に触れ、見学会は解散となりました。